モアイは語る

中学校の頃の社会のテストで、1枚の写真に関する問題が出た。

その写真は、白黒の印刷でもハッキリ分かるほど荒廃したヨーロッパの森を写したもので、写真の下には「上の写真は工業地帯付近の森林を写したものである。このように森林が荒廃した理由を答えよ。」みたいな記述式の問題が付されていた。僕は「工業地帯から排出されるガスによって、酸性雨が降るようになってしまったから」みたいな答えを書いた。

テスト返却の日、自分の結果はまずまずで、写真に付された記述問題にも丸がついていた。席につき、先生の解説を待っていると、同じクラスのYくんのところに人だかりが出来ていることに気づいた。何があったのか気になってYくんのところに寄ってみると、Yくんは恥ずかしそうに自分の答案を見せてくれた。Yくんの記述問題の答えのところには「モアイを運ぶために、たくさんの木を切ったから」という解答と、戸惑った先生の細いペケが見えた。

 

僕は、こっちの方が面白いな、と思った。

2019年よく聴いた音楽

U-zhaan & Ryuichi Sakamoto feat.環ROYx鎮座DOPENESSエナジー風呂」

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https://www.youtube.com/watch?v=MUaNz9M8fs8

2018年に出たU-zhaan坂本龍一による「energy flow - rework」に、環ROY鎮座DOPENESSがラップを乗せた、チルにうってつけの一曲。reworkの寂しげなトラックの印象と、静かなグルーブを活かしたリリック(まさか風呂でくるとは...)、どこを取っても耳触りの良さが圧倒的。間違いなく入浴時に一番聴いた曲だろう。とか呑気なことを書いているうちに鎮座DOPENESS大麻で逮捕されてしまった。お蔵にならないことを風呂場から祈る。

 

Florist『Emily Alone』

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https://www.youtube.com/watch?v=erT-OsHP9e8

https://www.youtube.com/watch?v=VNVaIGthZQU

女性ヴォーカリストEmily Sprague擁するFloristの3枚目。今作はそのタイトル通り、ほとんどEmilyの手によって制作された作品で、バンドから離れた環境も相まってGrouperに通ずるようなドローン/アンビエント的な響きを獲得している。アコースティックギターを基調としたもの悲しい響きの中で、悲観的になりすぎないバランス感覚の良さが何度もこの盤を廻したくなる要因だと思う。余談だが、このバンドのTiny Desk Concertは素晴らしい。未視聴の方は是非。Emilyのファッションもイケてる。

 

坂本慎太郎(feat.ゑでゐ鼓雨磨)「小舟」

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https://www.youtube.com/watch?v=vWFKeVCeJlE

坂本慎太郎、約3年ぶりの書き下ろし曲。ほとんどドラムとベースだけの骨格の上で「こんなことならなにかしとけばよかった」という後悔と、「でもそんなこと言うの今は嫌だなって思った」という逃避/抵抗は語られる。「何を見ても何もしない」大人と、「何も言わずにすべて見てる」子ども。「皆何処へ行くのか忘れてしまった」現状を認めながらも「でもこんなこと言うと今はダメだな」と選んだ沈黙。抽象性の高い歌詞が、楽曲のもつ朴訥とした雰囲気も相まって異様に鋭く迫って来る。諦観が、そのまま音楽になっている異様さと凄みを感じる一曲だった。

 

Not Wonk『Down The Valley』

NOT WONK『Down The Valley』ジャケット。NOT WONKの地元・苫小牧で加藤が自ら撮影した写真が並ぶ。

https://www.youtube.com/watch?v=dWjS92fWWJ0

アティチュード含め、今ニッポンで一番カッコいいバンドだと思う。「前回までのアルバムがべたーっとした感じだったので、音の隙間を作りたかった」というGt.Vo.加藤の言葉通り、今作ではバンド全体のダイナミクスレンジが下限にも上限もグッと拡がり、より衝動の表現が印象的になったように感じる。特にバンドの音が抑えられていることで、Gt.のピッキングニュアンスの妙、Of Realityなどの楽曲に見られるもたったビート感など、バンドの持つ引き出しの多さが露わになった。Subtle Flickerのギターがバーストする瞬間は、毎回鳥肌が立つ。アルバムのリリースパーティ、全感覚祭、SUPERCHUNKとの対バンと、彼らのライブを今年3回観たが、そのそれぞれが全く異なる意義のもと、バチバチに燃える意志を感じさせるステージで震えた。

 

Fennesz『Agora』

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https://www.youtube.com/watch?v=g0D2nnzoF0k

5年ぶりの6枚目にして、最高傑作ではなかろうか。今作は自室にて、最小限の機材を用いて録音したそうだが、フェネスの作品群の中で最もロックリスナーに対する訴求力が高い一枚だと思う。理想のシューゲイズは、一切のアタックを廃した音の流れの中にあったのかもしれない。Lovelessを静かな湖に沈めたような、瞑想にうってつけの一枚。

 

ミツメ『Ghosts』

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https://www.youtube.com/watch?v=bBBxhBRw7Nc

結成10年目、ミツメの新譜は間違いなく最高傑作。レースの外にあるような普遍性と同時代性が同居しているのは、巧みな日本語詞によるところが大きい。

ゆらめく灯り 遠くになら 綺麗なだけで 見れるのに(セダン)

見透かされた幼さが わざとらしく浮かぶのに

悪い癖は いつになれば 写る鏡の中(ディレイ)

特に暗喩がとても自然かつ巧みで、事象の裏に潜む感情、その詩的な結びつきを改めて言語化された感が凄い。曲を聴いてて一発喰らうことが多く、一々「おぉ...」とか「うぇ~?」と声が漏れてしまう。川辺素は世代屈指の作詞家なのでは?またその詩をピタリと寄せて離さないバンドアンサンブルも円熟の域に到達していると思う。

 

 

王舟『Big Fish』

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https://www.youtube.com/watch?v=e4kOG3CDHnM

王舟のBig fishは、彼の頭の中が何の制約もなく表現されているという感が強くて良い。必要最低限の音が、過不足なく鳴ることの快感に身を委ねられるアルバムは貴重。魔法使いが杖を使って自由に欲しい音出してる画が浮かぶような、音響的なユーモア性の高い一枚と思う。今作はアドバイザーとしてシャムキャッツの夏目知幸を迎えており、その経緯を語るインタビューも充実していて興味深い。

王舟と夏目知幸のフレンドシップ。アドバイスで心の花を咲かせ合う - インタビュー : CINRA.NET

 

Pedro The Lion『Phoenix

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https://www.youtube.com/watch?v=1goT7Sd4eME

新代田のカフェの二階、小さなスピーカーから流れていた『It’s Hard to Find a Friend』を初めて聴いた時、SparklehorseElliott Smith、Jeff Hansonに共通するような儚さをその音楽から感じ取り、衝撃を受けた。スマートフォンをそっとスピーカーに近づけ、Pedro The Lionというそのバンド、また彼らが既に休止状態にあることを知ったが、それからしばらくして、この2019年に彼らの15年ぶりの新作が届いた。『Phoenix』というタイトルの通り、しばらくのブランクを全く感じさせない、悲しくてどこか懐かしい楽曲。何よりも嬉しかったのは、今までの作品で一番ロックしてんじゃないのと思う、スリーピースの理想的な楽器の響きが聴けたこと。このバンドを好きで良かったと思う、最高の体験だった。

 

Hovvdy『Heavy Lifter』

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https://www.youtube.com/watch?v=VdbrHxhRIY0

前作と前々作いずれも私的年間ベストに入れたHovvdyの最新作。今作も大幅な路線変更はなく、只々箱庭感のあるインディロックを鳴らしている。メインストリームのトレンドとは全く別のところで、自分だけに寄り添ってくれる音楽のある有り難みよ。TellmeI’masingerの、Sparklehorse/Daniel Johnstonライクな音響感が堪らなく好き。今作はP-VINEからも国内盤が出たようで、国内の認知度があがり来日に繋がる展開を期待している。

 

細野晴臣『HOCHONO HOUSE』

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自身の名盤のタイトルをもじり、曲順も逆にするというお茶目な意匠は、あまりにもシリアスな自己との対話を相対化する手段だったのではないかしら、と思うような、圧倒的な音世界。中野サンプラザでのライブにおいて、「宅録でやる、と勢いで周囲に吹聴したことを後悔している。」「昔の自分との対峙はすごく気が滅入る。」とぼやいて客の笑いを誘っていた細野さんだったが、それは多分、120%の本音だっただろうと思う。過去の亡霊と向き合い、そこから新たな活路を見出だした苦悩を欠片も見せない飄々とした佇まいとユーモア。2019年はこの一枚が出た時点でお腹いっぱい、終わりでかまいません、と本気で思わされた今年のベストアルバム。

 

The Glow『AM I』

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https://www.youtube.com/watch?v=JAROwjVsiPQ

元LVL UPのメンバーの新バンドThe Glow。LVL UPの頃と変わらないローファイ感溢れる録音、メソメソした感情をなんとかギターで追い払おうとしましたが、結局無理でした、みたいな音像は好きな人には堪らないと思う。1曲が短く、良いメロディもバシバシ使い捨てる潔さも大好き。アルバム通して23分くらい。DDW所属のアーティストに外れなし。

 

Hovvdy & Lomelda『Covers』

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https://www.youtube.com/watch?v=vlXv1lrPxgw

Double Double Whammy所属の2アーティストが、互いの曲を演奏する良盤。このままアルバム一枚出してくれよ〜と思うくらいの化学反応で、9分間じゃ全然もの足りない。

 

DIIV『Deceiver』

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https://www.youtube.com/watch?v=3ohbZraF1aQ

 Captured Records謹製の万華鏡っぽいギターサウンドを捨て、一気に暗黒面に堕ちたようなどす黒ノイズが響くDIIVの新作。マイブラとスロウダイブの中間を行くような音が非常にカッコよく、何度も繰り返して聴いた。本作は急激な変化を見せたギターサウンドが良く取り沙汰されるが、コーラスワークも非常に優れていると思う。国内盤に付属してたSparklehorseのカバーも最高だった(なんならコレを一番聴いてる気がするくらい好き)。また、彼らのおかげでメンバーが急に坊主になったりすることに異常に興奮するという自分のよく分からん性癖にも気づけた。

 

Dos Monos『Dos City』

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https://www.youtube.com/watch?v=uq3J8C51bAY

次々と目まぐるしくシーンの移り変わる悪夢のようなVJに、言語中枢から漏れ出た断片を繋ぎ合わせたようなラップ。Dos MonosがBlack Midiのライブに対バンとして出演しているのを観た際、突然変異体に襲われたような衝撃が身体中を駆け巡った。3104丁目のダンスホールだの、『タクシードライバー』だの、美空ひばりだの、フィリップ・K・ディックだの、周りのものを全て飲み込みながらゆらゆら進む掴み所の無さ。膨大な参照先と、その文脈の接続のされ方、その全容を解き明かしたいという欲求が湧いてくるとても興味深い作品だった。(Black Midiのベースの人が、最近ずっとDos Monosのパーカー着ていて微笑ましい。)

 

Bill Frisell & Thomas Morgan『Epistrophy

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https://www.youtube.com/watch?v=Cery3R-Ombo

名ギタリストBill Frisellと、Thomas Morganによるライブ盤。音楽を通じた会話、などとベタな表現を用いたくなるほど、2人の音が互いに作用し曲が常に動く様子からはハッキリした阿吽の呼吸を感じる。2人のプレイはまるで達人同士の対局のように静かで緊密。イージーリスニング盤のような耳障りの良さの奥には当意即妙の連続があり、その夜しか生まれえなかっただろう一瞬が連続する悦びに浸れる一枚。このミニマルな編成は、二者のトーンを堪能するのに最適なアルバムで、眠る前によく聴いた。

 

TOOL『Fear Inoculum』

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https://www.youtube.com/watch?v=q7DfQMPmJRI

2013年のOzzfestでTOOLが来日した時は、まだ物心のついていないクソ餓鬼だったので、その有難みと事件性が全く分かっておらず、「Black Sabbathまで休憩!」とかいってステージ後方の空いているスペースで寝転がっていた。TOOLが登場したときの熱狂的としか言いようがない歓声を聴き、「Hooker With a Penis」でメイナードが唄い始めた瞬間、「とんでもないバンドだ!」と思ってステージの方に駆けていった思い出が蘇る。そんなニワカ丸出しの私でも「出るのね!?」と思ったのだから、リアルタイムで追ってた人は本当に感無量だったことと思います...。今年一番ファンの方の愛を感じたバンドはTOOLでした。本当に、本当におめでとうございます。

 

Whitney『Forever Turned Around』

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https://www.youtube.com/watch?v=6lDF38JzRUc

失礼を承知で抜かすが、Whitneyは一発当ててすぐ解散する系のバンドだと思ってた。今年出したアルバムがもはや貫禄を感じさせるほどの好盤だったことは嬉しい誤算で、こうなってくると一生続くバンドであってほしいな...などと贅沢な願いが湧いてくる。本作は前作にも増してモコモコ感が強調されたサウンドプロダクションで、聴いていて全く疲れない。軽佻浮薄な印象もない。一生聴きます。

 

Kan Sano『Ghosts Notes』

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Kan Sanoが追求するサウンドのオリジナリティ 全てを一人で作り上げた『Ghost Notes』を語る - Real Sound|リアルサウンド

Interview Kan Sano - どこにも属したくないと思ってたし、誰とも同じことをしたくないと思ってやってきた《Jazz The New Chapter for Web》|柳樂光隆|note

 Kan Sanoさんの新譜はこれまた不思議なアルバムで、引き合いに出されるブラックミュージックとの類似点は多いが、そこに芯から共鳴してるわけではなさそうな距離に独自のクールさを感じる。また、Twitterでハットの録音の仕方を教えてくれた親切さにも感動した。Toro y Moiの最新作にも通ずるクールさが全編を貫いていて最高。Youtubeの「My Girl」のコメント欄が堀北真希の妹さんへの言及ばかりとなっているが、曲がええんや曲が...!物件めっちゃお洒落な割に、電灯のスイッチが学校みたいなタイプなんか!とは思ったが。

https://www.youtube.com/watch?v=Ki4zPBnfPI4

 

Mac DeMarco『Here Comes Cowboy』

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https://www.youtube.com/watch?v=SD7BCqc1Juw

 代名詞的なキーボードの音が減退した分、シリアスな成分が増したMac DeMarcoの新譜は賛否両論分かれるところだろうが、個人的にはマックのパーソナルな部分が垣間見える秀作だったように思う。俺は前作よりも断然こっちだと思ったな。これまでの騒ぎから一旦降りて、大人としての哀愁を見せるかのようなメロウな曲群には感情移入せざるをえなかった。

 

 

Bon Iver『i,i』

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https://www.youtube.com/watch?v=wU-s_Zxv_MQ

破壊的/暴力的とまで評された『22,Million』からすると、今作『i,i』はどちらの曲にも振れていない、大人しい印象すらある、どっちつかずの一枚であるように思えるかもしれない。リリースも当初の予定より早まってしまい、忙しないままこの作品が消化されるのは勿体ない。ふり幅が途轍もなかった2ndから3rdの経緯との比較、といった文脈が排され、本当の意味で今作の評価が定まるのは数年後だと思うが、私にとっては既に忘れられない一枚。『22,Million』で得た唯一無二の音世界を下敷きに、Justin Vernonの素のままの声がありのまま響いている。間違いなく彼のキャリアにおける集大成的な作品だと思う。

 

Sunn O)))『Life Metal』

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https://www.youtube.com/watch?v=7ek3K0HhzCk

Sunn O)))の新譜も非常にドローン然としたアルバムだが、水に包まれるような感覚に陥るフェネスの『Agora』の質感とは対照的に、本作の重いギターのサステインには隙間が無いため、聴き手はその音から断絶される。ひたすら這っていく化物を観察するようなスリリングな体験。

 

Twin Peaks『Lookout Low』

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https://www.youtube.com/watch?v=BNxYFZTg2EA

シカゴのガレージロックバンドTwin Peaksの4作目。これまでの荒々しい若さが少し洗練され、同郷のWhitneyにも通ずるようなアダルトな印象を受ける仕上がり。だからと言ってそれが「丸くなっちまったなぁ」という悪印象に繋がるかというとそうではなく、むしろ一緒に年をとってくれた安心感がある。最新のライブを観るとその良さは全く失われておらず、更に安心する。

 

Mount Eerie『Lost Wisdom,Pt 2』

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https://www.youtube.com/watch?v=LsvQkuwMb0Y

Mount EerieとJulie Doironによる共作。2008年にリリースされた『Lost Wisdom』の続編として位置づけられている。Mount Eerieは『A Crow Looked At Me』(2017)や『Now Only』(2018)といった連作の中で妻の夭折に対する深い絶望を曲にしつづけている。今作の一曲目「Belief」でも以下のような歌詞が見受けられる。

僕がもっと若く無知だった頃 歩き回ってはよく空に向かって祈っていた 僕の根幹を試すような何かしらの災難をと 僕が若かった頃には

 でも 想像してみてほしい 愛する人が死ぬのを間近で注視すること そして 墓穴を見つめることが どんなものであるか

僕はその極限で暮らした そこに留まらねばならなかった。

今作の詩はその苦悩の延長線上にある(はずの)希望に手を伸ばしていて、胸がいっぱいになった。アルバム全体を通して、人生に唐突に訪れる裂け目/苦悩/喪失感に苛まれながらなんとか光の指す方へ歩を進めるPhilの姿が浮かびあがってくる。これまでの作品の経緯もあいまって、アルバムの最期に辿りつく境地には、言語化できない痛みと、ほんのわずかな希望が感じられた。

 

Lomerda『M for Empathy』

https://www.youtube.com/watch?v=CXLBnthcK60

記録しておかなければ、流れ去ってしまう記憶。声に出さなければ、溶けてしまう祈り。自分に聴こえるだけの声で、呟くように音楽を遺すという行為は美しい。11曲16分の中で、Lomerdaは何の虚飾も衒いも無く、誠実に、細く揺れる声で歌い続ける。波の立たない海のような報われなさが、異様に美しく胸を打つアルバム。

 

Wilco『Odd To Joy』

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『Bright Leaves』のデッドなドラムの鳴りを聴いた瞬間、今作はとんでもないなと確信した。ドラムの金物系がほとんど鳴らない空白を聴かせるようなサウンドとそのジャケットイメージが合致しすぎている。できれば今作のツアーの合間に見ておきたい。海外遠征も視野に入れて。

アメリカの良心、その苦悩と歓喜のプロセスウィルコ全アルバム・ディスク・ガイド | TURN

 

Vegyn『Only Diamonds Cut Diamonds』

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https://www.youtube.com/watch?v=nYdiwIDrc7c

サウスロンドンのプロデューサーVegynのデビュー作。Frank Oceanのアルバム『Endless』『Blonde』での共演でも知られている、そうなFrank OceanのBlonded 010で初めて聴いた際に、Boards of Canada/Telefon Tel Avivマナーの楽曲に一発でノックアウトされたが、アルバム全編通して素晴らしい出来だったと思う。

Vegynは本作についてさと楽観さの間のなものであり「例えば今いとすれば幸せとは言えないがたことは幸せだと思えると表ている

何を言っているのかイマイチ自信はないものの、とにかく良いアルバムだということは理解しているつもりだ。

 

Purple Mountains『Purple Mountains』

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https://www.youtube.com/watch?v=JZKMa-ByLBQ

2009年の引退以来、10年ぶりの復帰作。その復帰は本当に喜ばしいニュースだったが、David Bermanはこの世を去ってしまった。最期に残された本作は本当に素晴らしい出来だった。

 

Jeff Rosenstock『Thanks,Sorry!』

Jeff-Rostenstock-Thanks-Sorry

NYを拠点とするJeff Rosenstockのライブ盤。Bowery Ballroomで2月に行われたライブを収録している。昨年1月1日に投げ銭制でリリースされた『POST‐』からの楽曲「USA」を20秒前からカウントダウンして演奏し始める意味不明なくだり(しかも途中で数え間違えてる)から終演まで、ほとんどノンストップで29曲を駆け抜ける、最高に笑える一枚。Pitchfork Music Festival 2017での演奏を見ても分かるように、Jeff本人も、バンドメンバーもとにかく人柄が良く、ライブ会場全体を巻き込んで異常なほどハイテンションで騒ぎまくっている。その割に演奏が非常にタイトで興ざめもさせない実力の高さ!ぜひ日本に来てほしい。

 

Siamese Cats『はなたばEP』

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https://www.youtube.com/watch?v=RIP58A8EN7w

『Friends Again』『Virgin Graffiti』という傑作二枚のあとに、全く減速を感じさせない傑作EP。シャムキャッツほど信頼のおけるバンドは珍しい。夏目さんに加えて菅原さんもVo.をとるようになり、バンド全体の表現がかなり幅広くなったように思う。『Big Fish』で築いた関係性をそのままに、今作は王舟がプロデュースしている。

夏目知幸と王舟の朋友対談。お膳立てで、バンドに吹いた新しい風 - インタビュー : CINRA.NET

 

Lambchop『This(is What I Wanted to Tell You)』

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https://www.youtube.com/watch?v=u8NxdNERUGc

Lambchopの新譜は前作『Flotus』同様オートチューンを中心に据えた作風。初聴きでは「またか!?今やそのブームも去りつつあるんだぞ!?」と思ったものの、オートチューンと、密室感のある打ち込みと、温かみのある空気感との相性の良さに驚いた。lo-fi Hip Hopとも共鳴しそうな懐の深い作品で、聴けば聴くほど新たな発見がある。

 

Big Theif『Two Hands』

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今年2枚もアルバムをリリースし、そのどちらも傑作という破竹の勢いを見せたBig Theif。今まではバンドとしての音源よりも、エイドリアンのソロアルバムの方が好きだったが今年の動向には釘付けにさせられた。2枚のアルバムは甲乙つけがたいほど素晴らしかったが、結果として私はこちらのアルバムが気に入った。というのはこのパフォーマンスに度胆抜かれるくらい感銘を受けたから。5月のチケットも即座にとった。

 

Deerhunter『Why Hasn't Everything Already Disappeared?』

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https://www.youtube.com/watch?v=zG2TgCuMcjM

前作で取り入れたファンクの要素を捨てて、原点に立ち返ったDeerhunterのアルバムは、シンプルな楽曲構造の割に「どうしようもなくDeerhunterでしかない」というファンにとっては理想的なバランスを実現していたと思う。このバンドに関して、改めて語ることなど何もない。他に代えがきかない唯一無二の存在感を放ち続けてほしい。

 

3776『歳時記』

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https://www.youtube.com/watch?v=Bv-V9tD8gdc&t=122s

Twitterのタイムラインで見かけるまで全く知らなかったが、あまりの激賞されっぷりに興味を掻き立てられ、視聴するやいなやブッ飛ばされた衝撃作。元日から大晦日までの季節の移り変わりを、見事にそれぞれの月ごとに表現する手腕もさることながら、日付の読み上げと干支の循環とを楽曲の骨格として用いるアイディアとそれが見事に成立している構造は、凄すぎてもうなんか笑いしか出てこない。初めて聴いたとき、1:47からのカッティングフレーズでマジで声出た。

 

七尾旅人『Stray Dogs』

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https://www.youtube.com/watch?v=-9NwwoF0X2E

2018年の暮れに出た七尾旅人の最新作。過去作と比較して、ポップサイドが全面に出た作風で非常に聴きやすく、誤解を恐れずに言えば、今までの七尾旅人作品に付き纏っていた"覚悟をしてから聴くべき音楽"というイメージが払拭された。しかしそれは表現上の妥協や、鋭敏な感覚が鈍磨したということではない。今作で歌われる歌詞は比較的平易で、どの世代の人間にとっても受容しやすい言語の連なりである。そのような文字列から受容されるべき意味が、七尾旅人の声とギターによって、ぐわんぐわんに揺れ、どうしようもなく悲しくなる感覚。心の中で、意味の表裏が曖昧になり、物体の手前と奥が同時に見えるような感覚。誰でも使える言葉を使って、誰も触れてくれなかった魂に触れる音楽。余談だが、このアルバムを聴いた向井秀徳よく分からないメール七尾旅人に送ったくだり、本当に大好き。

腰に10倍の光をあてるお婆ちゃんの話

このあいだ、腰に10倍の光をあてるお婆ちゃんに出会った。

 

勤務を終えて職場の最寄駅であるA駅のホームで電車を待っていると、1人のお婆ちゃんがゆっくりと近づいて来て、「このあたりにいると、何号車に乗れるの?」と尋ねてきた。福知山線脱線事故をニュースで見て以来、先頭車両付近に乗るのが怖いらしい。電車の進行方向からすると、この付近は最後尾の車両だということを伝えるとお婆ちゃんはニコリと笑ってお辞儀をした。その時に、このお婆ちゃんには前歯がないこと、それどころか前歯の脇にあるはずの犬歯とかもない感じであることに気づいた。フガフガした喋り方と笑った時の顔のシワからして、全く邪悪さを感じさせないお婆ちゃんだと判断できたので、そのまま一緒に電車に乗り込んだ。

 

17時過ぎの電車は仕事終わりのサラリーマンや、これから夜の街で遊ぶであろう若者に溢れていて、座席の前までいくには人を掻き分けなければいけない。なるべくお婆ちゃんを座らせてあげたかったが、終点の主要駅までは3駅程度だからまぁ仕方がない、我慢してもらおう、と思っていたところ、どこからともなく布を高速でこすり合せるような音が聞こえてくる。音の正体を確かめるために周囲を見回すと、お婆ちゃんが高速で腰をさすっているのである。

「おばあちゃん、腰、痛いの?」

「この歳になると、どうもねぇ...。」

そんな会話をしていると、見かねたサラリーマン風の男の人が、遠くの方から手招きをしてくれた。どうやら席を譲ってくれるらしい。おばあちゃんは技術室にあった、正確に90度を測る定規のような姿勢のまま、サラリーマン風の男に近づき、まだ男の温度を残しているであろう席に申し訳なさそうに座った。

「座れてよかったね、おばあちゃん」と声をかける。おばあちゃんは少し恥ずかしそうにしながら「歳をとってからの方が、男の人は優しくしてくれるもんだねぇ」と笑っていた。どこかで聞いたことがあるようだが、お洒落な冗談だと思った。席を譲ってくれたサラリーマンは、つり革につかまりながら、窓の外を見て少し微笑んでいるように見えた。

 

主要駅に着く頃、おばあちゃんの行き先を訪ねてみた。都心から35分程度離れた駅に向かうとのことらしい。腰を痛めた老人が電車で35分間立ちっぱなしになるのは心配だ。

「次の電車は、優先席の近くに行った方がいいかもね、おばあちゃん。」と告げると、「大丈夫。次行くところで治るから。」との返答が返ってきた。どうやらおばあちゃんはこれから病院に行くらしい。

「なんだ。それなら安心だわ。病院からお家は近いの?」

「病院は家の近くにあるねぇ。ほら、A駅の近くのスーパーの裏の...」

「あれ、お家はA駅の近くなんだ。じゃあこれから行くところは違う病院?」

「病院?違うよ。光当てるとこ!」

「光...?」

「そう、十倍の光を当ててもらうとこ!」

一倍の光すら分からないのに、十倍が分かるはずもない。思わぬ展開に沈黙している間、おばあちゃんは矢継ぎ早に「十倍の光を当ててもらうと、腰が楽になんの!」「こないだ初めて行ったんだけど、腰の痛みがあっちゅうまに、スーッと消えんのよ、コレが」「ただの光なのにねぇ...」などと、十倍の光の効用を説明してくる。

 

これから向かうところが病院でない以上、おばあちゃんが何らかの組織に圧倒的なまでに騙されていることはほぼ確実であるものの、見ず知らずの若者である自分がそれを止める術はないように思った。おばあちゃんは十倍の光に魅せられている。初対面の自分でも、その光がおばあちゃんにとっての希望であることは痛いほどに読み取れた。

 

「そんなにすごい光があるんだね。今度困ったら俺も当てに行こうかな。」

「あんたはまだ大丈夫よ。優しい男は健康でいられるもんだよ。」

「マジか、嬉しいなぁ!ありがとね、おばあちゃん」

「こちらこそ、こんな年寄りに優しくしてくれてありがとうね」

 

主要駅に着き、電車のドアが開いた。

おばあちゃんが向かうべきは目の前の階段、自分が向かうべきはホーム中央の階段。ここでお別れだ。

「おばあちゃん、最後にいっこ聞いていい?」

「なに?」

「十倍の光って、何が十倍なの?」

おばあちゃんは少し黙ったあと、こう言った。

「...“有り難み”!」

おばあちゃんは手すりに掴まりながら、十倍の光の差す方へ消えていった。

MONKEY19号刊行記念 柴田元幸トークショー

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・『ウィットバーネットに敬礼』の朗読
 ストーリー誌のアンソロジーに対する序文。1960年代に執筆。サリンジャーは1930年代に氏の講義を受講。ストーリー誌ではなく、バーネット氏の記述に終始しているため、結局この序文は掲載されなかった。1975年、バーネット氏の没後に『作家のためのハンドブック』が出版。そこにひっそりとこの序文が掲載される。日本では未翻訳、今後もおそらく翻訳は成されないと思われる。

 

・『若者たち』について
ストーリー掲載時の他の短編と比べて、ダントツだと感じた。サリンジャーは初期が一番凄いと思うくらいの会話の上手さ。ヘミングウェイ『インナータイム』における氷山の一角理論が想起される。小説では氷山の一角を語ることで、その全体を掴ませなければいけない。アメリカの小説の語りの中でも、新しい流れを感じさせる。言葉の奥に何かを感じさせるが、その何かを特定できない。語り手たちもそれが何か分かっていない。

 

・シャーリージャクスン『ジャニス』(1938)の朗読。
大学の同人誌にて発表。学校に戻れない女の子が、ガレージの中で自殺を図り、その経験を周囲の人物に幾度も吹聴する話。本当に自殺を図ったのかどうかも分からず、読める可能性の幅が広い。

 

フィッツジェラルド『真珠と毛皮』について
サリンジャーの一つの影響源。14歳あたりの女の子の語りが新鮮。MONKEY掲載にあたり、村上春樹の許可を取ったとのこと。

 

・R・Oブレックマンについて
ストーリーの復刊に際して、表紙とデザインを手がけた。MONKEY15号に詳しい。ブレックマンの本棚の写真。フィリップロス。同世代のユダヤ系の作家。ペレルマン。グレイスペイリー。大江。村上龍。春樹。『本当の翻訳の話をしよう』の表紙を依頼(左が父。右は息子。)。村上春樹のサインが条件にあったらしい。

 

・アニメーション二本の上映。
 「アルカ・セルツァのCM」人間と胃袋の言い争いに、胃薬が仲裁に入ってくる。ハッピーエンドではない絶妙な表情。「CBSのために制作したクリスマスメッセージ」

 

・今号のテーマ、その現在との繋がり。
 サリンジャー作品には今読んでも古びない新しさがある。今号で扱ったテーマに関連する重要作はリチャードライト『アメリカの息子(Native San)』。誤って白人女性を殺した黒人男性が裁かれる。その責任は誰にあるのかを問う抗議小説。

そこから繋がる現代の作品として『Friday Black』という短編集の朗読。主人公はエマニュエルという若者。ブラックネス(黒人指数?)が数値化できる世界。人々はそれを抑制しながら生活している。ある日、白人の中年男(ダン)が、黒人の子ども5人をチェンソーで殺す事件が発生。事件を受け、エマニュエルとその同級生らは暴力組織を結成。白人たちを襲撃する計画を立て、それを実行していく。

朗読場面は、裁判の場面とエマニュエルとその同級生が車でイチャつくカップルを襲撃する場面が交互に展開。未邦訳だが、かなり衝撃的な作品で、近いうちにきっと翻訳が出るだろう。

 

質問コーナー
Q.表現者としての素質があればあるほど、社会から疎外されてしまうのか?
A.それは人によると思います。程度の問題かと。イノセンスと社会は融和しない。

 

Q.子どもの心が大きければ、才能が大きい?
A.作家が小説を書くときに、社会規範から逃れる。バカになって書く、という観点からすればそのようにも捉えられるかも。

 

Q.今号の表紙のテーマは?
A.ブレックマンが子どもの頃、多感だったニューヨークを表現。50年代のNY。目次のところのタクシー。

 

Q.柴田さんの朗読に落語の影響はある?
A.ある。

 

Q.サリンジャーのゼミに通っています。原文にあるヴォイスを訳にどう反映するか。サリンジャーに近いヴォイスを持つ作家/翻訳家は?
A.村上の訳ですら、原文と違う。丸い。たぶん近い訳にすると促音が多くなる。ホールデンが常にカッターを持っているように訳さないといけない。スラング等の尖り方はなかなか日本語に翻訳できない。そういった表面上の問題を除いて、最後に残るエッセンスを損なわないのが良い翻訳。そのような意味では春樹訳は素晴らしい。

 

Q.今回のトークショーは、過激なムードがある?
A.40年の『今時の若者』周辺が、現在にどう繋がっているかが、朗読のテーマ。リチャードライト以降。リアリズムを超えて、和解の幻想も超えて、現在に繋がっていく。

 

Q.『針音だらけのレコード盤』の他の訳はある?
A.サリンジャーがつけたタイトルは"Scratchy Needle on a Phonograph Record"。コスモポリタン掲載時は『ブルーメロディ』。勝手なタイトルの改変にサリンジャーは激怒した。翻訳は荒地出版からの作品集に掲載されてる。MONKEY掲載時には省いたが「乗った針」の部分も必要だったと後悔。聴けば聴くほど、傷がつくレコードのように無垢を守っている自分も、人を損ねているかもしれない。そこに作中人物の人との関わり方との共通項がある。

健やかな休日の過ごし方

朝は9時までに起きること。録画した番組は人と一緒に見るために夜まで取っておくこと。外に出て、人間が起き、動き、生産的活動に従事しているのを見たり、聞いたりすること。自分で選んでいない音楽を聴くこと。なんでもいいから本を開くこと。ここはつまらないと思ったら、次の場所に行くこと。可能な限り、人と喋ること。その際、なるべく形式から逃れた、意味のある会話を取り交すこと。選択の余地を減らし、目の前の出来事に専念すること。白いTシャツをシワがなくなるように畳むこと。少しでも物を書いたり、言葉を発したり、脳の中で焦げている言語を洗い流すこと。日の光を浴びて、目を細めること。甘い、苦い、塩辛い、酸っぱい、を舌に感じさせること。形容詞しか用いないような、すぐ錆びる思考をしないこと。心臓に忙しい思いをさせること。ペダルを踏み込むたびに進む、という当たり前を繰り返して、どこでもいいから行ってみること。汚れた皿を洗うこと。神さまとか、死とか、考えても分からないことに対して、ニュートラルな態度を取り続けること。笑うこと。彷徨うようなギターソロを聴くこと。生活に過度な物語を求めないこと。作ること。動物のようだと思うことも、やってみること。自分にしか伝わらない比喩表現も、せっかくだから取っておくこと。

 

蛇の皮のような模様の灰色の皿、ベタな形としか形容できないコップ、砂色の冴えない布、使い終わったガムシロップの容器にも、愛を持つこと。

年間ベストアルバム(2018)

シングルも込みのベスト30。順位づけに意味は無く、感覚でつけてます。

 

30.『Point of This』『Judy's Lament』/ Yakima

Glaswegian dreamers Yakima present their beautiful alt-rock single 'Judy's Lament'

グラスゴーインディバンドYakimaの今後が気になる。今年リリースした2曲を聴くだけで、彼らが”USインディの良心”の系譜に名を連ねるような優れた感性を持つことを確信。このバンドを知ったきっかけはHappyness(ロンドンのインディバンド)のツイートだったが、アメリカから離れた地でUSインディ的な音像が正当に継承され発展を遂げている点はすごく興味深い。1stアルバムに超期待。

Point Of This by Yakima | Free Listening on SoundCloud

Judy's Lament by Yakima | Free Listening on SoundCloud

 

29.Don't MIss It / James Blake

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2018年は二枚のシングルを発表したJames Blake。中でも『The Colour in Anything』の先の地平を切り拓くような「Don't MIss It」の衝撃は凄まじかった。2010年代は彼の時代だと言い切ることができるほど、他のアーティストに与える影響が大きいJames Blakeだが、 自分が与えた影響が返す波となって迫ってきても全く動じない孤高の存在であり続けていることが、この楽曲から伝わる。

James Blake - Don't Miss It - YouTube

 

28.Only Once Away My Son / Brian Eno with Kevin Shields

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説明不用の二人がタッグを組んで発表したアンビエント2曲。特に、ノイズ/ドローンの趣が強いOnly Once Away My Sonはとても美しい楽曲だった。ソニマニを観に行って、「ああやっぱりマイブラはロックバンドだったんだな」と確信するほど、ギターヒーロー然とした姿を見せてくれたケヴィンだったが、このコラボレーションでは自分の頭の中に浮かぶ美しい世界を完全に再現しているのではないかと思う。レコードストアデイ限定でLP化されたのも記憶に新しいが、スピーカーで流すと家具がガタガタ震えるくらい低音が意外と強くて笑える。

Brian Eno with Kevin Shields - Only Once Away My Son - YouTube

 

27.Minus / Daniel Blumberg

Minus

Daniel Blumbergがリリースした本人名義の第一作。Hebronixとして発表した音源を聴いて、DanielがYuckを辞めた理由はあまりにもハッキリ伝わった。今作はYuck脱退後の諸活動の延長線上に位置しながら、芸術家としての才能や志向するモノがより剥き出しとなった印象を受ける。影を落とすような不協和音や悲痛な歌声を聴くと、その音楽の先にある深い感情へと想像が掻き立てられる。様々な表情を見せる歌声の表現力が最大限活かされた傑作。

Daniel Blumberg - Madder (Official Audio) - YouTube

 

26.Cranberry / Hovvdy

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オースティンのインディバンドの2作目。去年のアルバムから大きく方向性は外さず、SparklehorseやPedro The Lionを想起させる一貫した音像。少し歪みのかかった、ダブルヴォイスのVo.の音響処理がとにかく好み。ナンセンスな音が一切鳴らない感覚、1曲1曲がもう少し聴きたい!というところで終わるのがハイセンスで超クール。作風自体が今作でめちゃめちゃ安定してる印象なので、次作でどう出るか更に楽しみ。

Hovvdy - Late | Audiotree Far Out - YouTube

 

25.Tongue / Anenon

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「自分のためだけに作られた音楽」みたいなものにめちゃめちゃ惹かれるんだが、今年はこのアルバムがすごく琴線に触れた。アンビエント/エレクトロニカ的なバックトラックの上をサックスが彷徨うみたいな曲が延々と続くだけのアルバムなんだが、全体の音像からは確かな説得力を感じる。「俺が気持ち良いと思うことだけを突き詰めたらこうなりました」みたいな。「部屋で一人で聴いてたらテンション上がるからこれでいいんです。」みたいな。実際知らんけども、ジャケットの通り、この世とあの世の間で鳴ってるような音楽。

Anenon - Tongue / Full Album - YouTube

 

24.Music IS / Bill Frisell

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名ギタリストBill Frisellの18年ぶり(!?)のソロ。今年も数多くのアルバムに参加していたが、Billのギタートーン、音の揺らぎを存分に楽しめたのはやっぱりソロアルバムだった。丁寧に爪弾かれる一音は、深いリヴァーヴも相まって豊かな余韻を聴き手に感じさせる。こんなふうにギターが弾けたらなぁ、こんな音楽をプレイできたらなぁと素直に思わせてくれる一枚だった。

Bill Frisell - Rambler (Alternate Version) (Official Video) - YouTube

Bill Frisell & Thomas Morgan - Full Session - 8/16/2017 - Paste Studios - New York, NY - YouTube

 

23.Silence Will Speak / GEZAN

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GEZAN『Silence Will Speak』 メンバー・チェンジして新生したバンドの、多面的な感情を束ねた〈ドキュメントの集合体〉とは? | Mikiki

インタビュー:いい加減みんな気づいてるんじゃないの?――“違和感”と対峙する、GEZAN『Silence Will Speak』 - CDJournal CDJ PUSH

次のアルバムのプロデュースをスティーブ・アルビニが手掛けること、そしてその資金を"BODY BUILDING"と称した一連のプロジェクト(ほぼクラウドファンディングみたいなもの)を介して調達すること。これらの情報が解禁されていくうちに、バンドの冒すリスクと、そのヒリヒリした緊張感に思わず唾を飲んだ。マヒトのブログやYoutubeでのライブ映像の更新を手がかりに、バンドのアメリカでの動向も細かく追うことができたが言語の通じない海外の人々を相手に、音楽一つで真っ向から向かっていく光景は何かを思わずにはいられない。GEZANがアメリカで味わった経験、見てきた景色そのものが生々しくパッケージングされているドキュメンタリーのような一枚。

GEZAN -BODY ODD feat. CAMPANELLA, ハマジ, LOSS, カベヤシュウト, OMSB - YouTube

GEZAN / DNA (Official MUSIC Video) - YouTube

 

22.2012-2017 / Against All Logic

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ニコラス・ジャーの別名義。今年最もクールに踊れる一枚ではなかろうか。どこか地下室的な冷たい響きと扇情的なループ感が両立していて、頭は冷静なまま踊れるクラブミュージックという感じがたまらん。様々な年代の楽曲をコラージュして、新たな音楽がつくり出されていく興奮を余すところなく味わえる一枚。

Against All Logic - This Old House Is All I Have - YouTube

 

21.qp / 青葉市子

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二年ぶり新譜。本作のリードトラック「月の丘」は昨年リリースされたマヒトゥ・ザ・ピーポーとのユニットNUUAMMの作品に「Moon Hill」という曲名で収録されている。今年の四月に吉祥寺キチムで行ったライブの中で、本作品の中からいくつかの新曲を披露していたが、その時は親密さを強く感じた気がする。例えば「月の丘」は青葉さんが見た夢を曲にしたものらしく、生活の延長線上にこの曲の中の世界があるんだなぁと意外に思った記憶がある。今作もクラシックギターとその唄声だけで基本的に楽曲が成り立っているが、知らない世界に引き込まれるような求心力をこのアルバムの響きからは感じる。今年リリースされたSweet Williamとのコラボ曲「からかひ」も、最高に素晴らしかったので、二人でアルバム出してほしい...。

青葉市子 - 月の丘 - YouTube

Sweet William と 青葉市子 - からかひ (Official Music Video) - YouTube

 

20.Milk / Klan Aileen

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INTERVIEW / Klan Aileen|Spincoaster (スピンコースター) | 心が震える音楽との出逢いを

5月にリリースされた3枚目。松山亮(Vo./Gt.)と竹山隆大(Dr.)の2人編成となって、現行の音楽シーンから距離をとるような独自のスタンスで制作を続けている。今作のコンセプトとして、Susumu Yokotaの『Acid Mt Fuji』を「ロックバンドでやる」というものがあったそう。とりわけリスナーに衝撃を与えたのは10分弱にわたってピアノとドラムのハンマービートが続く「元旦」というトラックだと思う。いったいどこまでマジなのかよく分からないインタビューを読んでいても、バンドの持つ癖の強さが伺える。前作よりも呪術的なVo.が前面に出ているのが、個人的には好み。

Klan Aileen - "脱獄" Live At Fever - YouTube

 

19.Ordinary Corruput Human Love / Deafheaven

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”ポストメタル”というジャンルは、この作品で一つの完成形をみたのではないだろうか...。そんなダサいことを思ってしまうような、素晴らしい完成度を誇る一枚。7曲で1時間2分。10分間を超える長尺曲それぞれが劇的な展開の末にカタルシスを感じさせる構成となっていて、バンドが操るサウンドダイナミクスをこれでもかと見せつけられる。今年出たシューゲイザーのアルバムを含めても一番なのではないかと感じる轟音パートの儚さ、その儚さを突き破った先に顕在化する激情の表現が圧倒的。

Deafheaven - "Honeycomb" - YouTube

 

18.ソングライン / くるり

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くるり「ソングライン」インタビュー|試行錯誤で見出した新たな音と手法 - 音楽ナタリー 特集・インタビュー

前作から4年ぶりにリリースされた新作は、くるりの”歌モノ”サイドをまとめたような温かみを感じる作品。岸田繁の歌声が楽曲を牽引していくような、弾き語りの原型を想起させる楽曲群は、生活の中に溶け込むプレーンさを感じさせる。上記リンクのインタビューを読んで驚いたのは、それらの素朴な印象を感じさせる楽曲のトラック数が、レコーディングの最中で100を超えている点。結果的にPANを極端に振って、各トラックの音を抜けさせたとのことだが...。100を超えるトラックを、聴き手に何の違和感も感じないまま受容させることの難しさを想像すると途方もない気持ちになる。リリースした当初は極端なPAN振りからビートルズを引き合いに出した論評が数多く見られたが、先人へのリスペクトを持ちつつ、かなり意識的に現代にしか鳴らせない音像を模索するバンドの姿勢はすごくカッコいい。

くるり - その線は水平線 - YouTube

 

17.There’s a Riot Going On / Yo La Tengo

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2013年以来のオリジナルアルバム。スライ&ザ・ファミリーストーンの名盤『暴動』からタイトルを拝借している。スライの『暴動』はキング牧師の暗殺を受けた公民権運動の失速、黒人社会の混乱を、静かな怒りによって表現したアルバムだが、Yo La Tengoの『暴動』はタイトルとうってかわってあまりに優しく響く。

このアルバムは、怒りと絶望に取って代わるものを提案している。2013年の『Fade』以来、初の正式なフルアルバムとなる『There's a Riot Going On』は、自由と正気、そして感情の広がりを表現した作品で、共通の人間性とは、解放的であると同時に穏やかに話せるということを宣言した一枚となっている。
- Luc Sante, 2017年12月

Yo La Tengo - "For You Too" (Official Audio) - YouTube

 

16.And Nothing Hurt / Spiritualized

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ジェイソン=ピアースのこれまでの集大成ともいえる良作。全ての楽器の演奏をジェイソンがただ一人で手がけたとは思えない。ゴスペルやブルースの影響下にある楽曲が、地から離れる瞬間の高揚と神秘はSpiritualizedの作品群に共通する魅力だが、その感動はこの作品の中でも存分に味わうことができる。本作品を携えて行ったツアーの後半はアルバムの完全再現であることからも、作品への自信や愛情を読み取ることができた。この作品が最期なんて言わず、また新譜聞かせてほしいな...。

Spiritualized - I’m Your Man - YouTube

 

15.折坂悠太/平成

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前作『たむけ』は、忘れ去られた日本の原風景を一人の詩人が唄いあげるような、ある種のノスタルジアに溢れた作品だったように思う。まるで戦前日本の原風景を想起させるような、セピア色をした、少し掠れた写真に通ずるイメージを漂わせる前作とはうってかわって、『平成』はモダンなアプローチに溢れた傑作だ。アルバムに先だってリリースされた『ざわめき』というEPを聴いて分かるように、折坂悠太の歌声は「合奏」という形態の中でより一層とてつもないダイナミクスを獲得したように思える。ポエトリーリーディングを思わせる「夜学」など、楽曲の幅の広さにも関わらず、ほとんど声の力だけでアルバムに一本の軸を通しているのは驚き。

折坂悠太 - さびしさ (Official Live Video at FUJI ROCK FESTIVAL 2018) - YouTube

 

14.Care For Me / SABA

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シカゴのラッパーSABAによる2nd。モノクロの部屋の中で一人項垂れるSABAの姿が写されたアルバムジャケットのように、本作にはグレーがかった陰鬱な雰囲気が一貫している。SABAはシカゴの改善されない治安や、朋友の死について祈るようにラップする。エミネム『Kamikaze』収録のThe Ringerという曲では3連フロウを無闇に使用するラッパーたちを茶化すような一幕がある(しかもその3連のモノマネが上手くて笑える)が、SABAのフロウはBPMの低い緩やかな8ビートをキチンと3:3:2で分割していくような、割り算として機能するフロウで、ポリリズムの中を漂う浮遊感と2泊4泊のスネアの美味しさを両方獲得しているように思う。メロウなトラックとの相性が抜群に良い。アルバム後に発表した新曲も素晴らしい。

 Saba - LIFE (Official Video) - YouTube

Saba - Stay Right Here feat. Mick Jenkins & Xavier Omär (Official Audio) - YouTube

 

13.The Sciences / Sleep

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なんだこの『劇場版名探偵コナン』に時折挿入されるようなザ・コンピュータグラフィックは...。1月の来日公演の記憶も新しいままに、Thirdman Rechordsから突如リリースされたSleepの新譜。Sleepの音は、ジャンルを超越した独自性を獲得している。アタックが極端に潰れたGt.とBa.の音が唸りをあげて迫ってくるような体験は、他のバンドでは味わうことができないだろう。本作品も、音が波の形を成して押し寄せるような音像に圧倒されるのみ。何はともあれこのアルバム、どれだけ音を上げても全然耳が痛くない最高のサウンドプロダクションなので是非爆音で聴いてみてほしい。

Sleep - Marijuanaut's Theme - 2018 New song - YouTube

 

12. Moon River / Frank Ocean

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2016年には『Blonde』を発表し、2017年には複数の新曲を発表していたフランク。2018年はMoon Riverのカバーを発表するのみとなったが、これがとんでもなく素晴らしい。これまで何人もの人々がカバーしてきた名曲を、Frank Oceanにしか出来ない解釈で見事に再構築してみせていると思う。子供や女性を思わせるようなオートチューンの歌声にフランク自身の声が混ざり合う瞬間の多幸感ときたら…。あらゆる立場の人間、あらゆる時代の人間が唄っているような多声性にすごく感動させられた。

Frank Ocean - Moon River - YouTube

 

11.Virgin Graffiti / シャムキャッツ

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ジャケットめっちゃ痛そう...。前作『Friends Again』では4ピースバンドとして、なんの不純物も混ぜないプレーンなロックを響かせていた彼らの新境地。一年という短いスパンでリリースした新作は、Vo.夏目さん曰く「綿菓子みたい。軽くて甘くてキラキラしてる。そこにライム絞った感じ」とのことだが、この感覚が聴き手にも余すところなく伝わる快作だった。前作と比較すると楽曲の幅も多岐に亘り、かなりウワモノが追加されたようなアレンジを聴くことができる楽しさがある。

Virgin Graffiti – siamese cats official web

上記のアルバム特設サイトの中に、メンバーのオフィシャルインタビューが掲載されているが、印象的なのは藤村さんの「いわゆる『USインディーを通ってきました』的な感じじゃなくて、日本の匂いみたいなのがにじみ出るような曲が並んでてもいいんじゃないか、と。」という一言。特に菅原さんがVo.をとる曲において、80年代邦楽シーン的なニュアンスを匂わせる演奏が沢山あって新鮮だった。男の子だからBIG CARって曲が一番好き。

シャムキャッツ - カリフラワー Siamese Cats -Cauliflower (Official Audio Video) - YouTube

 

10. Skylight / Pinegrove

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元Real EstateのギターDucktailsが告発されるなど昨年から続く#Me Too運動は音楽界にも波及した。Pinegroveについても前作リリース後に贈られた様々な賛辞が忘れ去られ、バンドの評価や信頼が地に墜ちるほど、かの事件がファンに与えた落胆は大きかったように思う。作品は作品であり、作者から切り離されて考えられるべきであるものの、落胆や失望抜きにこの作品を聴くのは難しい。この作品に純粋な評価を下すのは本当に困難なことだと思う。ただ、それもこの作品の聴かれ方/受容のされ方として全然アリなんだと思うようになった。問題の経緯については以下のリンクがとても詳しく情報をまとめて下さっている。

[FEATURE] 寛容と共存〜Pinegroveと新作『Skylight』について | Monchicon!

前作は二つの四角形が交わるようなジャケットで、その図形が象徴するような音楽性の親密さにいたく感動したのを憶えている。今作のジャケットは中央に水色で塗りつぶされた四角形が一つ。下地に赤色が微かに見える。ジャケットの外周にも大きな四角形を認めることができる。この作品は前作のように他者に対して開かれた親密さではなく、Evanが直面した孤独について、そして自分を包み込むあらゆる存在への祈りが込められているように思う。

 

09. 무너지기(Crumbling) / 공중도둑(Mid-Air Thief)

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昨年、"公衆道徳"名義で発表した作品が話題となった韓国の宅録アーティストの新譜。新たな名義は"空中泥棒"で、前作同様Lamp主宰のレーベルBotanical Houseから国内盤がリリースされる。今回の作品には同じく韓国の宅録アーティストSummer Soul(19歳!)が参加。情報量の多い楽曲が並んでいるのは前作同様だが、森は生きているとCorneliusを掛け合わせたようなプログレ的とも言える曲の展開、立体的な音の組み立てには驚くばかり。ライブしたりしてたら見てみたいな。

공중도둑(Mid-Air Thief) - 무너지기 (Crumbling) (2018) [Full Album] - YouTube

 

08.(after) / Mount Eerie

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『Crow Looked At Me』『Now Only』の楽曲をクラシックギターで弾き語るライブ盤。Mount Eerieの近作は、失った妻に対するあらゆる感情の真摯な吐露に終始している。それは歌にするにはあまりにパーソナルなことだったり、彼らと時間を共有していないものにとっては意味が取り辛く退屈に感じられることもある。しかしそれらすべての瞬間が彼女自身だったのだろう。失った存在を忘れてしまわないと自分が壊れてしまうものの、自分が忘れてしまうとその存在はどうなってしまうのか分からない。圧倒的なジレンマの中を彷徨うPhilの歌声は、元の音源にはないリバーヴ感とともにいつまでも胸に残る深い哀しみ聴き手に感じさせる。

Mount Eerie - (after) [full album] - YouTube

 

07. A Brief Inquiry Into Online Relationship / The 1975

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1stから2ndの音楽的深化にも驚いたが、今作の衝撃はそれを遥かに上回る。夜の街のネオンが似合う耳ざわりの良いポップスを並べた1stから、R&Bの流れを取り込んだ2ndへの歩みをみれば、彼らが優れた耳を持ち、聴いた音を再現する力に長けていることが理解できるだろう。しかしそのカメレオン的な姿勢と、バンド自体のキャラクターが相まって、いわゆる"ハイプ"的な扱いを受けていることも多々あったように思う。今作はその"ハイプ"さを突き詰めに突き詰めた、皮肉の効いた傑作。前作までの音楽性を引き継ぎながらアンビエントやテクノを取り込んだ楽曲や、Bon Iverさながらオートチューンをバリバリ効かせた楽曲をごった煮のようにアルバムにぶち込む節操のなさ(褒め言葉)には驚くばかり。一つ一つの模様を切り取ってみればどこかでみたようなものだが、その種類が何十、何百と組み合わせを増していくごとに凄みを帯びてくる。最初は可愛らしかった小さな怪獣が、周りの怪獣を食べていくうちに本当に手のつけられない化け物になっていくような怖さがこのバンドにはある。

The 1975 - Sincerity Is Scary (Official Video) - YouTube

 

06.Yawn / Bill Ryder-Jones

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バカみたいなジャケットが好きすぎる...。元Coralのギタリストのソロ第4作。これまでの作品もすごく良い作品だったが、今作は間違いなく最高傑作。Red House Paintersを彷彿とさせるスロウコア/サッドコア的な広がりのある音響に、どこか諦観を感じさせるVo.が最高にクール。そのくせギターの音がマジで感傷的で、そのギャップというかバランス感覚に完全にやられた。ともすれば懐古的ともとられてしまうノスタルジックな音像を、高い楽曲の完成度と歌メロの良さで聴かせ続ける硬派な一枚だった。

Bill Ryder-Jones - And Then There’s You (Official Video) - YouTube

 

05.Old Days Tailor / Old Days Tailor

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OLD DAYS TAILOR インタヴュー―〈日本語で歌うこと〉への挑戦 | Mikiki

笹倉慎介、伊賀航、岡田拓郎、谷口雄、増村和彦、濱口ちな、優河といったメンバーからなるスーパーグループの1st。果たしてこれが2018年に出た音源なのかと疑うほど、普遍性の高い心地よさを備えた楽曲が連続する。メンバーの錚々たる顔ぶれを見ても分かるように、先人たちの音楽への多大なリスペクトを感じる音楽性ながら、どんな季節であれ、どんな時代であれ寄り添ってくれる親密さも感じる名盤だった。このアルバムの中に「昔から 何もない海を見ていると なぜだかありもしない記憶に 胸がきしむのです」という歌詞があるんだが、それがとてつもなく好きで...。おじいちゃん家の裏の海を見ていたことをブァッと思い出したよ...。

OLD DAYS TAILOR - 晴耕雨読 - YouTube

 

04.Sleep Like It's Winter / Jim O'rourke

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生涯で最も好きなアンビエントアルバムかもしれん。俺の知らない聴覚が目覚めるのを感じる。聴覚が目覚めるってバカみたいな表現だけど、今まで認識していなかった音を聴くことが出来ているみたいな感覚にもっていってくれるアンビエントって初めてかもしれない。とにかく高音も低音も音が”廻る”時のトレモロ感が最高で、これはもうお耳にとっての幸福体験をもたらすお薬に近い。不穏なイントロから始まり、特にアルバム20分過ぎからの仄かな光が差すような展開はものすごく劇的。タワレコのインストアと青山のレコ発両方いったけど、全身に鳥肌立ちまくりの壮絶な体験が出来た。レコ発はアルバム音源を拡大した90分以上のライブ。録音して持って帰りたいくらい圧巻のライブだった。

Jim O'Rourke - Sleep Like It's Winter - YouTube

 

03.WHALE LIVING / Homecomings

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アルバムを年間ベストに選ぶ基準は”ああこれは一生聴くなぁ”という確信に近い直感が頼りな気がするが、このアルバムは誇張なしで本当に一生聴くと思う。今までの舌足らずな感じのする英詩のイメージが、良い意味で覆された。『リズと青い鳥』を見た時に、あぁ素敵な曲と思ったSongbirdsがラストにくるのも最高。なんかもう「良い映画観た~みたいなアルバムでめっちゃ幸せになるんだよね~」という、ギャルみたいな感想しか出てこない。若き荒井由実を思わせるエヴァーグリーンな雰囲気に脱帽。そしてLPでの発売を熱望(押韻)。

Homecomings "Blue Hour"(Official Music Video) - YouTube

Homecomings - Songbirds(Official Music Video) - YouTube

 

02.Twin Fantasy / Car Seat Headrest

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これはもう言葉が要らないでしょう...。一聴しただけで全てが分かる。瑞々しいとしか言いようのない各パートの重なり、サウンドの妙よ…。Bodysとか初聴きの時たまげたな…。ドラムの音が半端なく良い。2011年のオリジナル音源と聴き比べても、ウィル・トレドの遂げた圧倒的な飛躍がすぐ分かる。国内盤解説は珍屋の松林さんが手がけているが、その解説が本当に詳細で素晴らしい。買うなら絶対国内盤。「うっわこれ良い曲だな…ってまだBeach Life-In-Deathかよ」は聴いた人全員がたどる道…そしてFamous Prophets(Stars)で全員果てたはず…。ロックは死んでいないぞ…。

Car Seat Headrest - "Beach Life-In-Death" (Official Audio) - YouTube

Car Seat Headrest - "Famous Prophets (Stars)" (Official Audio) - YouTube

 

01.針の無い画鋲 / 土井玄臣

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大人になって聴いていて筋肉に力が入らない音楽が好きになった。今年はこのアルバムを本当によく聴いた。自分の今日を認めて、明日を静かに祈りたい時にここまで生活に溶け込んでくれる音楽はなかったように思う。何事も起きない繰り返しの毎日の中で、少しでも虚しさを感じた時に、このアルバムに沢山救われたように思う。エリオットスミスは、マスタリングの際に低音域をかなり意識的にカットして声から肉体性を排除していた、みたいな話を読んだことがあるが、この作品のファルセットからもおしつけがましい”肉体”の存在は一切感じない。アルバムラストを締めくくる「マリーゴールド」まで、ドラムのビートは一切なし。一人でいる時にぽつんと浮かんでくるとりとめのない考えのように、自分の近くにずっとある、そんな音楽が結局一番良い。

土井玄臣 - ハート / Motoomi Doi - Heart - YouTube

2017/12/13 Matsuri Session / Zazen Boys

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今年の10月、Zazen Boys吉田一郎の脱退を発表した。脱退に対しての個人的な感想は、驚きと悲しみが半分、納得とこれからの道筋への期待も半分といったところだった。

2015年に吉田一郎不可触世界名義で発表したソロデビュー作『あぱんだ』は、チルウェイブ(死語?)的な音像に、醒めた子供のような歪なラップがのっかった、"ベーシスト"という枠には収まりきらない才能がはっきりと表れている作品だった。『あぱんだ』とは"全集"といった意であるそうで、そのタイトル通りあらゆるアイディアを詰め込んだ作品は聴き手に少し散漫な印象を与えたかもしれないが、それと同時に一人のアーティストとしての可能性を多分に感じさせるものだったと思う。要するに吉田一郎ザゼンを抜けることは納得だし、楽しみでもあるということです。

 

しかし同時に吉田一郎が抜けたザゼンがあまり想像できないなぁというモヤモヤした思いは胸に残り…。その思いを抱えたまま最後のライブを見届けた。

 

Zazen Boysはこれまで2度のメンバー変更を経験した。1度目はDr.のアヒトイナザワの脱退に伴う"柔道二段"松下敦の加入(2005年)。2度目は"町田のヤンキー"ことBa.日向秀和の脱退に伴う吉田一郎の加入(2007年)であった。この10年間で吉田一郎Zazen Boysのサウンド面にどのような変化をもたらしたかについては、スタジオアルバムは勿論だが、ライブ録音によってよりはっきりと伺い知ることができる。

 

日向秀和期のライブ音源として秀でているのはMATSURI SESSION LIVE AT YAON(2006年)だろう。アヒトイナザワの手数の効いたドラミングに代わり、松下敦の一音一音のドスのきいたドラミングがバンドに馴染んだ頃の録音で、日比谷野外音楽堂ならではの会場の開放感と高揚感がパッケージングされたようなとても素晴らしい作品だと思う。個人的にはこの作品が前期ザゼンボーイズの集大成的作品だと思うが、現行の体制に比べると松下敦のドラムスの上を各楽器のフレーズが流れるような印象を受ける。

 

吉田一郎松下敦の音が邂逅したこれ以降の作品から後期ザゼンボーイズの幕は明け、明確にバンドの目指す方向性に合致する形でサウンドも変容していく。初期はスタインバーガーのヘッドレスベースを、後期はサイケデリズムのジャズベースを使用していた吉田一郎のサウンドは、松下敦の重いドラミングを真正面から受け止める強さを持っていた。吉田一郎のプレイは執拗なまでに反復されるフレーズの中で左手を使ってサボれるフレーズでも、全て右手でピッキングをする実直なものだが、そのフィンガーピッキングの音は加入当初から松下敦のドラミングに呼応してほぼスラップのそれに近いようなかなり硬質的でパーカッシブな響きを持っていた。

松下敦吉田一郎のプレイ在籍時のバンドの変化と円熟はLive At Fukuoka Omuta Fuji(2014年)で味わうことができるが、曲間に向井秀徳が入れる唐突なブレイク(…?あのジャッ!ってやるやつ)の"一撃で殺す"感じは前期にはない圧倒的な強みだったと思う。向井秀徳がシーンに呼応しながらKimonos(Talking Heads的なプリミティブな反復性があって聴いててめっちゃ気持ち良い。)等の活動をバンドに還元しつつ、音楽のリズムを突き詰めていく中で、一撃の重さみたいなものが求められるのは当然の話で、そう言った意味ではこの10年間でバンドを進化させた、というかバンドの潜在的な可能性を引き出したのは吉田一郎松下敦リズムセクションだったように思う。

 

前置きがグダグダと長くなったが、ここからライブの感想を書く。Fender Telecaster→RIFF MANという鬼のような流れで始まったライブだが、その時点でメンバー全員の顔つきがいつもと全く違うと感じたことが印象に残っている。バンドという一つの塊が消えていく、その虚しさと哀しさがメンバーの顔にハッキリと表れていたように思う。確実にあの会場には何か姿の見えないものが死んでいく空気が充満していたし、その雰囲気を真摯に抱えたまま進行したライブだからこそ、今まで見たザゼンの中でも一番にカッコ良いライブだと思った。

今回のライブは曲間のアレンジが最小限に抑えられていて、その点も印象的だった。ザゼンボーイズのライブはツアー毎に今までの楽曲が解体/再構築されていく。毎回生まれ変わったように新鮮な驚きを与えてくれる昔の曲群が、今回は音源とほとんど変わらない形で提示されていたように思う。個人的にはその立ち返りが、バンドの原初の姿への回帰に感じられてよりグッときてしまった。もはや先も少ない、この4人で鳴らす音への集中と自信がステージには漲っていた。向井秀徳がほとんどの曲の前で、次に演奏する曲名を告げるようなMCをしていた。

ライブ終盤、自問自答を始める前に向井秀徳吉田一郎ザゼンを抜けることを改めて発表し、吉田一郎の方を振り返らずに「ようやった!」と声をかけた。その後に始まる「自問自答」は今まで見た、聴いたどの自問自答よりもカッコよかった。吉田一郎がカッティングしながらラップする向井の後ろ姿をずっと見ていた。カシオと松下敦は微笑むような表情で吉田一郎を見ていた。

 

今回の開場後のSEはずっとLed Zeppelinが流れていて、豊洲ピットの広さも相まってステージセットがグッと纏まっているように見えた。「袈裟(法被?)を着たツェッペリン」というのは向井が自身のバンドを例えた言葉みたいだけど、僕の中で吉田一郎さんのいるZazen Boysは本当にビートルズツェッペリンみたいに、「この4人でなければ意味がない」と思わせるような唯一無二のすごくカッコ良いバンドでした。本当にありがとうございました。これからのZazen Boys吉田一郎の行末に幸あれ!