2017/12/13 Matsuri Session / Zazen Boys

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今年の10月、Zazen Boys吉田一郎の脱退を発表した。脱退に対しての個人的な感想は、驚きと悲しみが半分、納得とこれからの道筋への期待も半分といったところだった。

2015年に吉田一郎不可触世界名義で発表したソロデビュー作『あぱんだ』は、チルウェイブ(死語?)的な音像に、醒めた子供のような歪なラップがのっかった、"ベーシスト"という枠には収まりきらない才能がはっきりと表れている作品だった。『あぱんだ』とは"全集"といった意であるそうで、そのタイトル通りあらゆるアイディアを詰め込んだ作品は聴き手に少し散漫な印象を与えたかもしれないが、それと同時に一人のアーティストとしての可能性を多分に感じさせるものだったと思う。要するに吉田一郎ザゼンを抜けることは納得だし、楽しみでもあるということです。

 

しかし同時に吉田一郎が抜けたザゼンがあまり想像できないなぁというモヤモヤした思いは胸に残り…。その思いを抱えたまま最後のライブを見届けた。

 

Zazen Boysはこれまで2度のメンバー変更を経験した。1度目はDr.のアヒトイナザワの脱退に伴う"柔道二段"松下敦の加入(2005年)。2度目は"町田のヤンキー"ことBa.日向秀和の脱退に伴う吉田一郎の加入(2007年)であった。この10年間で吉田一郎Zazen Boysのサウンド面にどのような変化をもたらしたかについては、スタジオアルバムは勿論だが、ライブ録音によってよりはっきりと伺い知ることができる。

 

日向秀和期のライブ音源として秀でているのはMATSURI SESSION LIVE AT YAON(2006年)だろう。アヒトイナザワの手数の効いたドラミングに代わり、松下敦の一音一音のドスのきいたドラミングがバンドに馴染んだ頃の録音で、日比谷野外音楽堂ならではの会場の開放感と高揚感がパッケージングされたようなとても素晴らしい作品だと思う。個人的にはこの作品が前期ザゼンボーイズの集大成的作品だと思うが、現行の体制に比べると松下敦のドラムスの上を各楽器のフレーズが流れるような印象を受ける。

 

吉田一郎松下敦の音が邂逅したこれ以降の作品から後期ザゼンボーイズの幕は明け、明確にバンドの目指す方向性に合致する形でサウンドも変容していく。初期はスタインバーガーのヘッドレスベースを、後期はサイケデリズムのジャズベースを使用していた吉田一郎のサウンドは、松下敦の重いドラミングを真正面から受け止める強さを持っていた。吉田一郎のプレイは執拗なまでに反復されるフレーズの中で左手を使ってサボれるフレーズでも、全て右手でピッキングをする実直なものだが、そのフィンガーピッキングの音は加入当初から松下敦のドラミングに呼応してほぼスラップのそれに近いようなかなり硬質的でパーカッシブな響きを持っていた。

松下敦吉田一郎のプレイ在籍時のバンドの変化と円熟はLive At Fukuoka Omuta Fuji(2014年)で味わうことができるが、曲間に向井秀徳が入れる唐突なブレイク(…?あのジャッ!ってやるやつ)の"一撃で殺す"感じは前期にはない圧倒的な強みだったと思う。向井秀徳がシーンに呼応しながらKimonos(Talking Heads的なプリミティブな反復性があって聴いててめっちゃ気持ち良い。)等の活動をバンドに還元しつつ、音楽のリズムを突き詰めていく中で、一撃の重さみたいなものが求められるのは当然の話で、そう言った意味ではこの10年間でバンドを進化させた、というかバンドの潜在的な可能性を引き出したのは吉田一郎松下敦リズムセクションだったように思う。

 

前置きがグダグダと長くなったが、ここからライブの感想を書く。Fender Telecaster→RIFF MANという鬼のような流れで始まったライブだが、その時点でメンバー全員の顔つきがいつもと全く違うと感じたことが印象に残っている。バンドという一つの塊が消えていく、その虚しさと哀しさがメンバーの顔にハッキリと表れていたように思う。確実にあの会場には何か姿の見えないものが死んでいく空気が充満していたし、その雰囲気を真摯に抱えたまま進行したライブだからこそ、今まで見たザゼンの中でも一番にカッコ良いライブだと思った。

今回のライブは曲間のアレンジが最小限に抑えられていて、その点も印象的だった。ザゼンボーイズのライブはツアー毎に今までの楽曲が解体/再構築されていく。毎回生まれ変わったように新鮮な驚きを与えてくれる昔の曲群が、今回は音源とほとんど変わらない形で提示されていたように思う。個人的にはその立ち返りが、バンドの原初の姿への回帰に感じられてよりグッときてしまった。もはや先も少ない、この4人で鳴らす音への集中と自信がステージには漲っていた。向井秀徳がほとんどの曲の前で、次に演奏する曲名を告げるようなMCをしていた。

ライブ終盤、自問自答を始める前に向井秀徳吉田一郎ザゼンを抜けることを改めて発表し、吉田一郎の方を振り返らずに「ようやった!」と声をかけた。その後に始まる「自問自答」は今まで見た、聴いたどの自問自答よりもカッコよかった。吉田一郎がカッティングしながらラップする向井の後ろ姿をずっと見ていた。カシオと松下敦は微笑むような表情で吉田一郎を見ていた。

 

今回の開場後のSEはずっとLed Zeppelinが流れていて、豊洲ピットの広さも相まってステージセットがグッと纏まっているように見えた。「袈裟(法被?)を着たツェッペリン」というのは向井が自身のバンドを例えた言葉みたいだけど、僕の中で吉田一郎さんのいるZazen Boysは本当にビートルズツェッペリンみたいに、「この4人でなければ意味がない」と思わせるような唯一無二のすごくカッコ良いバンドでした。本当にありがとうございました。これからのZazen Boys吉田一郎の行末に幸あれ!